だれが原子をみたか

hal_tasaki1999-02-25

だれが原子をみたか (岩波科学の本)

だれが原子をみたか (岩波科学の本)

いつの時代になっても、「目に見えない対象を扱う現代科学は『虚構』に過ぎない」といった安易な科学批判は後を絶たないようだ。そのような批判を素人の戯言として一笑に付すのは容易だが、それは科学的な態度とは言えないだろう。

「なぜ科学者は目に見えない『原子』を扱うのか?」という一見素朴なようで実は深い問いに、江沢洋がじっくりと答えた「だれが原子をみたか」がようやく復刊された。

江沢洋という名前からは、書斎の理論家の姿を思い浮かべる読者も多いだろう。しかし、この本での彼は、自ら顕微鏡を覗いてスケッチをし、渓谷に赴いて水の柱の上にトリチェリの真空を作り出す実験家でもある。もちろん、歴史を生き生きと語り、また、自らの目で見て手で触った現象と、論理・数式との結びつきを明晰に解き明かしてくれるお馴染みの江沢節も堪能できる。

教育者、専門家も含めて、科学に関心を持っているすべての方が手にする価値のある一冊だと信じている。

数学セミナー vol. 38 no. 4 (1999年4月号)